こどもの心とからだシリーズ


はなたれ小僧

かつて、鼻の下に二本線を垂らしていた「はなたれ」の こどもは、最近あまり見かけなくなった。
耳鼻科でも昔ほどひどい小児の蓄膿は見られなくなった という。けれども鼻みずや鼻づまりが長びさ、なかなか治 らない事もある。一〜二週間で治るのは急性鼻炎で、感冒 の時によく経験する。
経過が長引くのに、鼻みずが膿性にならず、アレルギー 素因があって、くしやみ、水様の鼻汁、鼻づまりが発作性 にみられるのは乳幼児であっても、アレルギー性鼻炎と考 えられる。
鼻みずの治療は急性鼻炎であれば抗生剤や抗ヒスタミン 剤を服用し、アレルギー性鼻炎であれば抗アレルギー剤や 抗ヒスタミン剤が適応となる。
鼻みずがあまりにひどく、鼻づまりのある時には排膿と 通気のために幼児であれば、片方ずつ鼻をかむことを教え る。
乳児では鼻汁を吸い出してやればよい。
お母さんに直接口で吸ってあげてと言うと、「え−っ」と 驚かれる事もあるが、後で口をゆすげば良い。 家庭用鼻汁吸引には・ベビーQ(ミナト製薬) ・ズルズル(キタガワ有)・ベルビタール(ジェイ・ヒ ューイット)などが役立つ。二週間で無効 なら耳鼻科あるいは小児科の受診をすすめる。


チャイルドシート

こどもの乗車中の死傷事故が急増し、年間一万人で十年前の二倍になっ ている。運転している大人はシートベルトを義務づけられているのに、乳幼 児はまだまだ無防備が目につく。
運転者は自分の責任だからベルトをするしないは本人の問題だが、運転に かかわりのない乳幼児をどう守るかが先決の筈だ。
このような本末転倒が来年からのチャイルドシートの義務づけで、ようや く軌道修正されることになった。
しかしこれからが問題だ。大人には理屈が通用しても、わけも分からない で自由を束縛される乳幼児を、どうやって安全と調和をとるか。こどもは決 してじっとはしてくれない。
乳幼児に優しいチャイルドシート、こどもにごく自然に受け入れられるチ ャイルドシート、これからが大人にとっての正念場だ。


かんの虫

二才ごろになると、一般に反抗期といわれて、なかなかいうことを聞かない。 というより何かしたい、何かをして欲しいのに、言葉でうまく表現出来ず、いら いらして暴れたり、泣きわめいたりして親や家族を困らせる。
こんな時も昔の人は知恵を働かせて乗り越えて来た。すなわちお腹の中に 「かんの虫」がいて、それが騒ぐからだと考えたようだ。
この虫さえ封じてしまえば子どもも静かになる、というわけでお寺や神社で 「虫封じ」が行われていた。拝んでもらうと、親も家族も気が落ち着き、もう治る という安心感で子どもと接するので、いつの間にか子どもも落ち着く。
近頃はいろんな薬が「かんの虫」に使われているが、これも飲ませたという安心 感が親の気持ちを落ち着かせる。「かんの虫」がいる訳ではないが、かんの薬や 虫封じなどが、科学の進歩した今日でも存続しているのは、育児が生活のなかで 人々の知恵の上に成り立っているということで、これからも昔の智恵とうまくつ き合っていきたいものだ。


日射病・熱射病

こどもは暑さに弱い。
強い日ざしのもとでは日射病に注意が必要だ。
また熱射病は車の中など、高い温度の中に長い時間い ると起こる。どちらも暑さで、こどもの体温調節機能 がおかされてしまい、突然高熱を伴い、ぐったりし、 昏睡状態になったり、ひどい時には生命を脅かすこと になるので、海などに出かけた時は、強い日ざしや暑 さには充分注意しよう。
意識がない場合、熱が下がらない時、そして水分も受 けつけない場合には早急に救急車を手配しよう。
日なたなどにいて、ぐったりしている場合は、涼しい 場所に移し、頭を高くして寝かせ、呼吸をし易くし、 意識がしっかりしたら、水分を充分に補給し、さらに 塩分の補給も考え、スポーツイオンドリンクなどを利 用するのも良い。


よだれ

よだれには唾液がたくさん出来て(真性)流れ出るものと、 唾液は普通に出来て、うまく飲み込めない場合(仮性)がある。
赤ちゃんの場合、乳歯が生える時の刺激で唾液が多く出て、 よだれがたくさん出る(真性)。唾液がたくさん出るのは 良いことだ。
三、四歳以上のよだれは心配されることが多いようだが、 口内炎、むし歯などが原因でよだれがみられる(真性)。 この場合、痛みや食欲がなくなることもあるが、 口内炎やむし歯が治れば、よだれも泊まる。
扁桃腺や舌が大きく、普段からいびきが大きかったり 口を閉じずに舌を出していて、よだれが続く子もいる(仮性)。
よだれがあまりに長引くと、知恵おくれが心配されるが、 ことば、運動の発達が正常であればあまり心配はない。 こどもの発達は常にバランスよくとはいかない。
どうしても心配な場合は小児科、耳鼻科への受診を おすすめしたい。


反対癖

一歳半から三歳ぐらいまでの、幼児によく見られる現象だ。
食べなさいと言えば、「タベナイ」、寝なさいと言えば「ネナイ」と拒否し、 おいしそうにお菓子を食べているので、おいしいかと尋ねると「ウマーイ」 と答える。おいしい、と言わせようとすると、面白がって「ウマーイ」と言う。
わが国では、反抗期と呼んできたが、決して大人に反抗している訳ではない。
反対癖は自分は自分、他人は他人という独立心の発達の現われで、正常な現象 だ。こどもが何事にも反対するのは、それによって自分の存在を認めさせ、 また自主独立を宣言しているのだから、むしろこれをしつけに利用すべきで、 上手に誉めて、他人に頼らないように励ますのが得策で、こどもの意志に反して、 強制的に何かをさせようとするのは、かえって問題を長びかせることになる。
反対癖自身はあまり長続きするものではなく、遅くとも四歳ごろまでには 目立たなくなるといわれている。


ちえ熱

「ちえ熱って、ほんとにあるの?」とよく尋ねられる。
生後半年ほどの赤ちゃんの原因不明の発熱を昔から「ちえ熱」といってきた。 その原因を乳歯の萌出にあるとする「生歯熱」という考え方は恐らく外国から 輸入されたものだろう。 さて生歯と体温の関係を詳しく調べた結果、乳歯が生えるときの発熱は微熱程 度(37.5℃〜37.8℃)で決して高熱は出ない。 生後半年くらいで母親からの免疫がうすまり、初感染をおこし易く、それを何 でも生歯のせい(ちえ熱)にしてしまうのは誤りであろう。
赤ちゃんにしろ、三歳児にしろ、こどもの些細な体調の変化は、謙虚に受け止 めて対処することが大切だ。


おでこがあつい

水銀体温計で腋の下で熱を測るとき、「何分くらいはさんでいるか」と尋ねると、三分 〜五分というのが大方の答である。
体温計は腋の下へ四十五度の角度で、水銀柱のふくらみを差し込んで測る。
大体八分〜十分が正解で、寒い冬や太っている子はさらに時間がかかる。
ある時期「子供の体温が低くなった」と騒がれたが何のことはない測定時間に原因があ った。多少低い子もいるが、それは個人差と考える。
10分もかかるのが大変なので作られたのが「電子体温計」。一分半くらいで体温の経過 を分析して、数値で出す予測値である。
もっと早くということで、鼓膜温度を数秒で測定する「耳穴式体温計」が出た。早く測 れるのは良いが、耳口の大きさ、耳垢の具合で不安が残る。
走り回る子どものおでこに手を当てて「あら熱がある」と心配した昔が懐かしい。子ど もは汗をよくかくのでおでこは冷たくても、胸に手を当てると体温がわかり易い。


ゴッツンコ

こどもはあたまが重い。あのゴッツンコの後の何とも言えない衝撃は、こどもの頃の思 い出である。
私などしょっちゅう頭をぶつけていたような気がする。「ゴツンとしたあと、すぐに冷 やしましたか」と聞いてみるが、きちんと処置していない人が意外と多い。
「ゴツン」とやったら、まずその部分を冷やすのが処置の基本で、時には圧迫も必要だ 。皮下の毛細血管が広がり、血液中の血しょうなどが滲み出て、タンコブとなる。この 時血管が破れると、内出血をともなう青いタンコブになってしまう。ぶつけて二〜三日 が外傷による炎症の極期といわれている。少なくともこの間は冷やすことに大きな意味 がある。
打撲直後の急性期は冷やして、慢性期には温めろと言われるが、こどもはじっとしてい ない。運動で代用されるので、温める必要はなさそうだ。
現在私たちが使う打撲後の炎症止めとしては、湿布や非ステロイド消炎剤の塗り薬など がある。


おもちゃと発育

母親だけが自分の世界のすべてであった赤ちゃんも生後7〜8ヶ月ごろからは一人で遊 べるようになる。
おもちゃを与えると、一人おもちゃに話しかけて遊ぶようになる。
おもちゃは返事をしないけれど、おもちゃに心を移し自分自身で返事をつくる。
おもちゃと自分の小さな物語の中で遊ぶ。
おもちゃがない時は、ヒモや袋、足の指などをいじり話しかけている。
それから積み木を積んだり、こわしたりする時代がくる。
ばいばいが言えるようになると、人に言わず近くにあるぬいぐるみに、ばいばいをする こともある。
2歳になると気の合う友達が出来て、小さな社会生活が始まる。


おなか いた〜い

こどもは時々おなかが痛いと訴える。苦しそうに訴える。でも、なんでもないことが多 い。時間が経てば、けろっと忘れて走り回っている。
腹痛の外に、食欲がないとか、下痢、嘔吐がないか、発熱、便秘はないか、顔色はどう か、腹痛は何時間も続くか、腹痛以外の症状をよく見る必要がある。
3〜4歳くらいの子どもは中耳炎でも、気管支炎でも「おなかがいたい」という傾向が ある。
救急で腹痛だけの子どもは便秘がその原因のことがあり、腰を曲げてお腹を痛がる。浣 腸で便を出してやると、けろっと治ることが多い。


こどもの笑い

うまれつき、よく笑う赤ちゃんと、あまり笑わない赤ちゃんがいる。
よく笑う赤ちゃんは大きくなっても、大体よく笑う大人になっている。
誰にでも喜んでだっこされる赤ちゃんと、知らない人に抱かれるのを厭がる赤ちゃんが いる。
勿論、年齢的にも時期的にも差はあるが、大体誰にでも抱かれる赤ちゃんは度胸がよい 。水の中にもすぐはいるし、高いところからも平気で飛び降りる。
抱かれない赤ちゃんは新しいことは厭がる傾向がある。
よく笑いよく抱かれる赤ちゃんは陽性で、誰からも好かれ、得な性分である。
笑わなくて抱かれない赤ちゃんは損な役割に生まれたのかもしれない。
でも、そういうこどもの中に純真でやさしい心の持ち主が多い。


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